株式会社ホテルライクインテリア代表取締役 清水葉子
はじめに、私自身がこのブランドを始めた理由や、どんな想いで日々ものづくりを続けているかについて、少しだけお話しさせてください。
“心地よさ”には、質がある──
そう実感したのは、18年前、ヨーロッパのホテルで過ごした一晩でした。
そのベッドに横たわったとき、シーツの肌ざわりに驚きました。
しっとりと肌に沿いながら、ほどよいハリがあり、余計な主張はない。
ただ静かに、身体が受け入れられていくような感覚がありました。
あとで調べてみると、それはイタリア製の高級リネンでした。
「布1枚で、こんなにも感情が変わるのか」と、衝撃を受けたのを覚えています。
日本に戻ってから、あらためて国内で似たような寝具を探してみました。
百貨店にも素敵なリネンは並んでいましたが、多くは限られたラインナップで、
“上質なリネンを比べて選ぶ”という文化は、まだこれからなのかもしれないと感じました。
2007年頃の起業当初は、海外の高品質なリネンを仕入れて販売していました。
けれど実際に使ってみると、日本の住まいに合わせて提案するには調整が必要だと実感したのです。
特に、サイズは日本の寝具事情と大きく異なり、すべてをリサイズしなければなりませんでした。
また、色や素材感の選び方にも、日本ならではの感性があることに気づきました。
「なぜ日本では海外のリネンが少ないのか?」
その理由を、体感として理解しました。
だったら、自分たちで作るしかない。
“本当に気持ちよく、日常に馴染むリネン”を、自分たちの感覚でつくろう。
それがブランド立ち上げの原点です。
そう思い立ち、世界各国の高品質なリネンを取り寄せ、
素材・糸・織り・染めの構造を一から学び直しました。
同じ綿でも、撚りや密度、仕上げによって肌ざわりはまったく変わる。
さらに、“染める水”の違いが、色や質感にまで大きな影響を与える。
素材とは、技術と感性の積み重ねそのものであることを、深く理解するようになりました。
ただ、そうしたリネンは非常に高価で、1枚で10万円を超えるものも少なくありません。
この品質を、もっと現実的な価格で届けたい──そう思い、私は生産地そのものを探す旅に出ました。
向かったのは、インド・中国・アメリカ・ポルトガル。
それぞれの国で、高級ホテルやブランド向けのリネンを手がける工場を一つひとつ見てまわりました。
インドでは、良質なエジプト綿と職人の織りの技術。
ポルトガルでは、美意識の高いリネン文化。
アメリカは、産業スケールの整った生産体制。
でも、最終的に私が選んだのは中国でした。
日本では「中国製」と聞いて不安を感じる方も多いかもしれません。
けれど、実際に現地を訪れてみると、その印象はまったく違いました。
中国は今や世界最大規模のベッドリネン産地のひとつ。
まるで街全体が工場のようなエリアでは、最新の設備と分業体制が整い、
織り、染色、縫製、検品までがそれぞれ高い専門性を持ち、
激しい競争のなかで品質がどんどん磨かれているのを感じました。
私たちは30件以上の工場を訪ね歩き、対話を重ね、サンプルを何度も試しました。
その中で出会ったのが、OEKO-TEX(エコテックス)認証の最難関レベルを取得し、
品質も意識も信頼できる──まさに理想のパートナー。
「日本のお客様に本当に喜ばれるものを一緒につくりたい」
そう願う気持ちまで共有できる工場と出会えたことが、今のブランドのクオリティを支える大きな力になっています。
もうひとつ、私たちが大切にしたのは、日本の住まいに馴染む佇まいです。
海外のホテルのような空間をそのまま真似しても、日本の暮らしには調和しにくい。
だからこそ、私たちは静けさと清潔感を軸に、
色味・サイズ・佇まいを丁寧に設計しました。
それは、目立ちすぎず、でも確かに空間の空気を変えていくような、静かな存在です。
ブランド名の「ホテルライクインテリア」には、“ホテルのような整った空間をご自宅で味わってほしい”という想いを込めました。
この名前をつけた背景には、ある忘れられない体験があります。
20代の頃、両親と一緒に新宿のパークハイアットに宿泊したときのこと。
それが、はじめて訪れた本格的なラグジュアリーホテルでした。
広々としたスイートルームに足を踏み入れた瞬間、空気がすっと変わるのを感じました。
大きな窓からは新宿の街が一望でき、静けさに包まれた室内には、整えられた真っ白なベッドと凛とした照明。
高い天井、研ぎ澄まされた香り、肌ざわりの良いリネン──
すべてが完璧にコーディネートされ、余計なものが一切ない。
そして何よりも、自分自身が丁寧に扱われているような、静かな自信に包まれる感覚がありました。
「ホテルって、空間そのものが人の気持ちを変えるんだ」と
心の底から驚いたあの瞬間を、自宅でも再現したい。
その想いが、ブランド名の出発点になっています。
肌に触れたとき、空間に置かれたとき
そっと、幸せが満ちていくようなものづくりをしたい。
ホテルのように整っていて、けれどもっと自分らしく、もっと暮らしに合う。
そんなリネンを、これからも届けていけたらと思っています。
株式会社ホテルライクインテリア
代表取締役 清水葉子